東アジア出版人会議編『東アジア人文書100』

東アジア出版人会議編『東アジア人文書100』


 前近代には東アジア読書共同体が存在し、書物交流が行われていた。日本における仏典や漢詩朱子学などはその基盤の上に花咲いた。近代になり脱亜入欧で西欧の書物に輸入がさかんになり、戦争・侵略・植民地化でその共同体は破壊された。本書は2005年に中国、香港、台湾、韓国、日本の民間の出版社編集者が集まり、5年間会議を開き、東アジアの現代の古典である人文書100冊を選定したブックガイドである。中国、韓国、日本はそれぞれ26冊、台湾16冊、香港6冊が精選されている。将来にかけて相互翻訳や書物情報交流や、若手編集者の研修、共同出版も計画されている。東アジア読書共同体のルネスサンスを期待しながら読んだ。
 この人文書100冊の選定には現代の古典として評価され「品位」と「文化の公共性」が基準とされている。選定には異論もあるだろう。私もその選定すべてに同意する知識がない。日本ではなぜ丸山真男『講義録』なのかわからない。吉本隆明共同幻想論』、石牟礼道子『苦界浄土』網野善彦『無縁・公界・楽』白川静『字統』は納得できるが、意見が割れる本もある。驚くことに中国の26冊はほとんど日本語訳がないことだ。戦後日本文化の欠落を感じる。李沢厚『美の歴程』、費孝通『郷土中国』陳来『東亜儒学九論』汪暉『現代中国思想の興起』香港の夏志清『中国現代小説史』などの紹介文を読むと、読みたくなる。
 韓国になるとかなり翻訳が出ている。金九『白凡逸志』全相運『韓国科学史』李基白『韓国史新論』など。でもいずれも未読である。台湾、香港の人文書も翻訳されていない。今後の相互翻訳に期待したい。いま市場主義の出版不況など困難が多いなか、文化理想主義に立った編集者の試みには敬服する。一つの試みとして電子書籍化もあるのではないかと思う。(みすず書房