サットン『イスラム芸術の幾何学』

ダウド・サットン『イスラム芸術の幾何学


 イスラムの工芸美術のデザインを見ていると、モチーフの反復とリズムによって、音楽を聴いているような恍惚感に陥って行く。不思議な魅力がある。この本はイスラム芸術に使われたデザインを幾何学的な図形として分析したもので、図形が多く数学的分析とともに見ていても面白い。サットンは、アラビア文字のカリグラフィー(書道のようだ)と抽象的な装飾模様からなるという。それは二つからなる。第一は平面を左右相称の図形に分割し、複雑に織り合わせ、中心と無限を現す幾何学パターンである。第二はアラベスク、唐草、葉、蕾、花など理想化された植物模様であり、生命やリズムを現すという。
 読んでいると、円、正三角形、正五角形、正六角形、をマトリックスから生まれる倍数で3回、4回、8回対称にし、無限反復させている。中央の星形のまわりに花弁型を放射状にし花形の結晶の図案は華麗である。無限の反復は無限の神を現す天上の図形だろう。アラベスクの渦巻は植物のリズムや成長を視覚的に描いているが、アンチ砂漠の楽園としての庭のイメージかもしれないと私は思った。私が面白かったのは、自己相似形という大きさは違っても形は同じ反復パターンは、現代数学フラクタルというが、イスラム芸術では永遠性を現すとして昔からよく使われていたという指摘である。サットンはスペイン・アルカサル宮殿の模様を取り上げているが、白い帯が織り成す複雑な織り目の中に、青、緑、黄土色、黒の自己相似形は、目眩を起こす美がある。
 またドームの球形の幾何学や、天井から流れ落ちる美しい瀧のような模様の幾何学もあっかつており、イスラム文明を知るための基本的な本といえる。(創元社・武井摩理訳)