稲葉振一郎『ナウシカ解読』

稲葉振一郎ナウシカ解読』

原発事故が起こって以来、宮崎駿作のアニメ・マンガ『風の谷のナウシカ』に出てくる「腐海」「玉蟲」「巨神兵」「大海嘯(大津波)」「墓所」「蒼き清浄の地」などの言葉が頭の中を駆け巡る。稲葉氏によれば、アニメでは「風の谷のナウシカ」は世界の破滅と再生・救済の物語であり、人間が汚し生存さえ困難になった奇怪な有毒な生態系「腐海」とその大海嘯の中での戦争である。ナウシカは「腐海」が人間の技術文明が生み出した汚染物質を還元・無害化して世界を浄化しているといい、人間相互のまた自然生態系との戦争を終わらせる調停者として生きる。「腐海」の存在は圧倒的であり留めようもなく拡大を続けるし、その中の生物「王蟲」の襲来(大海嘯)で壊滅したペジテ都市も迫力があった。腐海の出す瘴気、土の汚染、難民終結の地はいま象徴的に思える。
 稲葉氏の解読はアニメ(1984年)とマンガ(完結は1994年)の違いからナウシカを解読しょうとしている。まず腐海の焼却計画だがマンガではなく、腐海に生きる人間の意味が問われている。さらに「大海嘯」の問題。アニメではナウシカの献身で防げるが、マンガでは土鬼の生物兵器・粘菌の暴走で起こり土地の大半を飲み込む。マンガにしか登場しない「森の人」はナウシカに「蒼き清浄の地」が腐海の最深部に存在することを教える。ナウシカの「人間の汚したたそがれの世界でわたしは生きます」というが、大海嘯を見て自死しようともする。稲葉氏はこの本で「ユートピアの臨界」と副題をつけているが、「蒼き清浄の地」が到達不可能であり、ある諦念が感じられると指摘している。「墓所」は王蟲や粘菌を育て大海嘯の呼び水になる旧科学技術の貯蔵庫で、その封印にナウシカは物語終幕で赴く。けして癒されない悲しみを抱えながら、愛と友愛で「わたしたちの風の神様は生きろといっているもの、わたし生きるの好きよ、光も空も人も蟲もわたし大好きだもの、わたしあきらめない」とナウシカはいう。(窓社)