モーリス・鈴木『日本の経済思想』

テッサ・モーリス・鈴木『日本の経済思想』


副題に「江戸期から現代まで」とあるように熊沢蕃山から佐和隆光まで40以上の経済学者が登場してくる。だが総花式でなく、日本の経済時代状況との関わりで経済思想を扱い、とくに近代では西欧経済学の輸入史観でなく、内発的形成を強調しながらも日本特殊思想としてでなく、国際的普遍性のなかで考えている。江戸期は儒学的な「経世済民」を基本に置くが、貨幣経済の物価変動や、重農主義思想(熊沢)、保護貿易新井白石)、市場交換と商業重視(海保青陵)、国家管理経済(佐藤信淵)外国貿易重視(横井小楠)など同時代の西欧経済思想と平行しえ分析されている。
近代以降が三分の二を占めるのは当然だろう。明治期の明六雑誌自由主義経済学と保護主義論争は、いま国際貿易協定参加の論争の走りと思える。両世界大戦期のマルクス経済学の資本主義論争は日本の特殊性問題として、高度経済成長期の日本的経営など日本特殊論とも繋がる。戦後の宇野弘蔵経済学やその弟子大内力の国家独占資本主義や長洲一二構造改革論なども、いまの中国経済などを見ると再評価されてもいい。
鈴木氏の本で面白かったのは、高度経済成長期の経済学で下村治、大来左武郎、小宮竜太郎から宮崎義一都留重人の分析で、新古典派総合の崩壊を論じた部分である。都留経済学のGNPを超える思想はいまも考えさせる。最後に現代の経済思想を取り上げている。行政改革論と内需拡大論の対立から、環境破壊で宮本憲一や宇沢弘文の社会共通資本の重視、日本の伝統文化から産業社会の分析を試みた村上泰亮、情報ネットワーク経済の今井賢一、科学技術革新と経済に取り組んだ佐和隆光など面白かった。佐和の国際的ケインズ問題による低開発国の経済学の必要で、この本は終わる。鈴木氏は、日本の経済思想には、自由市場の信頼と国家計画の必要性の座標軸と、国際普遍主義と日本特殊主義の争点の二つを挙げている。(岩波書店