バーク『文化史とは何か』

ピーター・バーク『文化史とは何か』


「文化史的転回」といわれ、文化史が盛んになっている。また「カルチュラル・スタディーズ」も民衆文化研究として注目されてきた。文化史の大家バークのこの本は、文化史の全体と問題点を的確に指摘している。ブルクハルトやホイジンガなど古典的文化史は、エリート・高級文化が中心だが、いまは日常的生活・慣習など民衆文化にまで広がっている。文化の拡大は人類学との接点を広げている。レヴィ=ストロースギアツ、タイラーなど演劇的視点などの影響も大きいという。其れと共に、身体の歴史や記憶や感性の歴史、読書やメディアさらに生活習慣などの「表象」の歴史まで拡大してきている。
 バークは「表象」と「実践」の文化史が、近年「構築主義」の登場で特色づけられているともいう。構築主義とは歴史を単なる社会、物質的な客観的反映とみないで、主体的に、実践的に「文化」が構築されていく歴史を描こうとすることを言う。能動的実践を重んじるから、言語などに拘束された構造主義とは違う。またグローバルな視点も強まり、文化的遭遇や「文化的翻訳」が重視される。オリエンタリズムクレオール文化が注目されるようになる。
バークはこうした「文化史的転回」に対する今後のあり方も列記している。ひとつは古典的文化史への回帰でエリート文化の再評価の道である。二つは多くの領域の拡大で、政治文化史や暴力、情動の文化的解明である。革命期の文化革命の分析である。三つ目は主観主義的構築主義への反対で社会史の逆襲である。21世紀の文化史はどうなるのかを考えせせる本である。(法政大学出版局・長谷川貴彦訳)