藤岡靖洋『コルトレーン』

藤岡靖洋『コルトレーン



1960年代、私は新米記者として宇都宮に居た。その時先輩の筑紫哲也さんがモダンジャズコルトレーンをよく聴いていた思い出がある。66年来日し平和と愛を説き「聖人になりたい」とも発言、広島・長崎でもジャズを演奏した。藤岡氏の評伝は綿密にコルトレーンの人生をたどり。所縁の地にも行き写真も掲載されていて、40歳で早逝した天才ジャズメンの姿をよく描いている。藤岡氏の評伝を読み次のことを知った。
① 父方、母方の祖父母が黒人キリスト教会の牧師であり、ゴスペルの影響を受けており晩年の傑作、組曲「至上の愛」は宗教性に溢れている。迷いの時代を彷徨って(麻薬、深酒、不倫など)懺悔して神の愛に包まれる至福が、サックスで綿々と演奏される
② 「アフリカ性」への回帰。ルーツをアフリカに求めブッラクアート運動にかかわる。時代は公民権運動が盛り上がったアメリカだ。「アフリカ・ブラス」「マイ・フェイヴァリット・シングス」という作品がある。コルトレーンの立場は白人と共存共栄のキング牧師の立場よりも、マルコムXの黒人分離独立の考え方やブラックパンサーに近いという藤岡氏の見方は面白かった。
コルトレーンは単に黒人性への回帰だけを音楽に強めただけでなく、ストラビンスキーやスロニムスキー、シェーンベルグなど12音の現代音楽の影響も受け「シーツ・オブ・サウンド」といわれる重層的な音が長期持続する作品を作った。「ジャイアント・ステプス」に見られるサックスの響きは素晴らしい。
音楽が世界を変えると信じられた時代にジャズの極限に挑んだコルトレーンの評伝が日本人の手で書かれたことに敬服する。(岩波新書