ウルリヒ・ベック『危険社会』

ウルリヒ・ベック『危険社会』
ウルリヒ・ベック『世界リスク社会論』


 ウルリヒ・ベックは現代ドイツの社会学者である。『危険社会』は1986年のチェノブイルリ原発事故が起きたとき出版され、『世界リスク社会論』は2001年9・11米国同時多発テロの後、出された。ベックは外から襲う天災と、近代文明の発展が内包して生み出した原発事故、環境破壊、金融危機、テロを含め「危険」と呼んでいる。ベックは近代化を二つの社会変化と捉え、最初の近代化は産業社会で生産された富の分配(貧困・階級問題)が大きなテーマだが、第二期の近代は危険社会で、そこから産み出された危険の分配は危険発生者も巻き込む(ブーメラン効果)であり、グローバルな普遍性をもつ。この第二の近代を「自己反省的近代」の始まりとみる。ベックはそこから「不安共同体」が生まれ、その克服に世界的市民が、国家を超えて生じるともいう。また政府や議会制民主主義の政治では解決できない電子工学、遺伝子工学、原子的技術=経済による生命的の自然的基盤の貧困化という「サブ政治」の問題が出てくる。
 危険は知識や科学の緊張関係は、科学技術の合理性と被害を受ける社会の合理性の矛盾が起こる。だがベックは単純な科学技術批判者ではない。ポストモダン論者でもない。産業社会にあって制御可能だったものが制御不可能、安全保障不可能になることに対し、世界的公共性の構築、世界的「サブ政治」への抵抗の組織化などとともに、専門科学を超えた専門分野の協力体制の構築も主張している。危険社会の分析は鋭いが、その克服は常識的であり、楽天的なのがベックの主張にあるが、問題提起の書として熟読した。(『危険社会』法政大学出版局・東廉・伊藤美登里訳、『世界リスク社会論』ちくま学芸文庫・島村賢一訳)