梅棹忠夫『モゴール族探検記』

梅棹忠夫『モゴール族探検記』
 50年前にアフガニスタンの奥地にモゴール族を求めて地図にもない山地にわけいり部族たちと暮らした人類学的探検記である。今回復刊したので読んだが、いまアフガンでは戦火が熾烈である。梅棹が探検した地域も戦争に巻き込まれている。モゴール族はどうしているのだろうか気になりながら読んだ。モゴール族は13世紀ジンギスカンの侵略とともに取り残され、いままでアフガニスタンの奥地に生き残ってきた部族である。アフガニスタンは民族構成が複雑な国で、そのなかでモゴール族は少数民族として700年他民族と交わらずモゴール語を保存しているはずで、その言語を収集しようという意図もある。
イランに近いヘラートから探検は始まる。自動車は途中までしか行かない。あとは、ウマである。タイワラというゴール河のほとり大きな泥煉瓦のお城から出発する。梅棹の文章はやさしく名文である。例えば「谷の東側は、いっぱいの岩山である。あの岩山をこえらるのだろうか。馬でこえられるともおもえないのだが。全山、岩のかたまりである。山の中腹に岩脈が露出して、のたうっている。色はやっぱりダイダイ色だ。ほとんど一草もはえていない。空が、底がぬけたように青い。谷間はポプラの緑。色彩はすさまじい。」
モゴール族との巡り合いまでの悪戦苦闘。なかなか警戒心をとかないし、複雑な部族対立もあり、外国人嫌いもある。やっとモゴールのテントに出会い、生活しながらとうとうモゴール語とペルシャ語との対訳の一冊しかない辞書のような本を発見する。だが生のモゴール語をしゃべる人が少ない。すでに同化している。遊牧と農耕の生活や習慣も面白く書かれている。
ジルニーというモゴールの村で将来を梅棹は考える。複合民族国家の将来、世界は変転するがモゴールの農民はサンギ・マザールの連峰のふもとで、かさかさの土をそまつな農具で引つかきまわしているだろう。だがだんだん部族間の交渉は深刻になるかもと梅棹はいっている。果たしていまモゴール族はどんな生活をしているのだろうか。(岩波新書