ジョーンズ『ブルース・ピープル』

ロイ・ジョーンズ『ブルース・ピープル』


アフリカン・アメリカン(黒人)のアメリカ史であると共に、ブルースの成立からジャズ、リズム・アンド・ブルースまでの黒人音楽史でもある。ジョーンズはブルースの起源は西アフリカの労働歌に由来すると言う。アメリカという異文化の境界線上で、同化と反発の中でいかにジャズが成立して行ったかを「声の重視」から捉える。張り詰めややしゃがれた発声技術、交唱的歌唱、それはコールマンの演奏にもみられる。アフロキリスト教の呼びかけと応答の叫びと反復の音楽。
 この本は公民権運動激しい60年代に初版が書かれたため、黒人性の称揚が本質主義として打ち出されている。ブルースに関して、南部アメリカ黒人奴隷の不服従の音楽が強調されている。だから白人文化に同化しようとする黒人中産階級への批判は厳しい。「ブルース衝動」は黒人ブルースの根源であり、白人化したスウィングやヂューク・エリントンのような都市市民向けに洗練された音楽には批判的視点を持つ。それに反し狂騒と猥雑さを響かせるリズム・アンド・ブルースは、非西洋的な反抗と評価されている。
 ビバップモダンジャズのサックスなど器楽ソロ演奏は、パーカー、ガレスビー、モンクのように、野生ブルースの感情を取り戻したとジョ−ンズは述べている。ビバップの荒々しさや不調和は伝統的アフロ・アメリカンの音楽観に近いとジョーンズは指摘する。またロックン・ロールは新たな再活性化をポップ音楽にもたらし、商業主義的なスウィングほど感情的不毛に成らなかったともいう。モダンジャズについては人間の声にかなり近づくコールマン、コルトレーン、ロリンズという演奏者は「人間の声を模倣して文字通り叫び、わめき、原初の叫びをしばしば聴かせた」と書く。ジョーンズの考えに同調しなくても、アメリカ黒人音楽について書かれた最良な書だと思う。(平凡社ライブラリー飯野友幸訳)