矢部宏治『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないか』

矢部宏冶『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』

           矢部氏の本は、同感するところが多い。沖縄の米軍基地が存続することと、日本国憲法の非武装、交戦権放棄の矛盾を論理的に指摘しているからだ。憲法9条2項と沖縄の基地化はセットだということを、憲法成立、国連憲章敵国条項日米安保条約地位協定サンフランシスコ講和条約、砂川判決などの緻密な歴史的分析で明らかにしているからだ。
           さらに「自発的隷従」として、昭和天皇の沖縄基地への半永久的な米軍駐留希望メッセージまで述べられている。日本が有事の戦争状態になったとき、自衛隊は米軍統一指揮権下にはいる密約に合意し、それが安倍政権の集団的自衛権で、「密約の現実化」として明文化されたというのも正しいだろう。
           矢部氏は陰謀論は取らないし、アメリカにおける国務省と軍部の矛盾をついているし、国連の在り方にも鋭い見方をしている。護憲の理想主義や、保守の憲法改正にも与していない。米軍撤退論者だが、それがアメリカの基地帝国化の重荷解消や、中韓など近隣諸国との平和連帯、国連敵国条項の抹消にもなるための憲法改正を望んでいる。
           私が興味深かったのは、フィリッピンが共和国憲法を改正して、最低限の防衛力を保持すると明文化し、さらに今後国内に外国軍基地を置かないことを条文化し、米軍を完全撤退させた「フィリッピン・モデル」に倣い、日本国憲法にもそれを明記するという点である。9条1項の不戦条項は残し、2項を改正する。それはアメリ国務省良識派との連帯が必要になるかもしれないが、アメリカもフィリッピンの事態があるから、協議せざるをえないだろう。
           東アジアの「不戦共同体」は、中国、韓国、北朝鮮、ロシア、アメリカの共同でおこなわれなければならないが、まず日本が「自発的隷従」から解放されなければならないだろう。矢部氏はいう。「重要なのは安保村の歴史と構造を知り、1945年の時点にもどったつもりで、もう一度周辺諸国との関係改善をやり直すこと。そして米軍基地と憲法九条二項、国連憲章敵国条項の問題を一つの問題としてとらえ、同時に解決できるような状況をつくりだすこと、それは過去七〇年のあいだにドイツが歩んだ道に比べれば、はるかに楽な道になるはずです。」(集英社インターナショナル