吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』

吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』

2015年文科省が出した通知「国立大学法人等の組織及び業務の見直しについて」の文系学部の廃止の衝撃について、吉見氏は報道の短絡化を批判しながら、国立大法人化によって、文理格差、大学間格差がいかに広がってきたかを指摘している。
リベラルアーツ、教養、一般教育、との区別を明確にしながら、人文知はいかに効用があるかを説いていく。役に立つは、手段有用性と価値創造性があり、文系知は長い時間軸で長く役に立ち、理系知は先端的研究という短い時間軸で役に立つという。
吉見氏の視点は、文系危機だけ見るのでなく、新自由主義の大学改革である大綱化、重点化、法人化による危機という広い見方をしているのが優れている。その上で、グローバル化、ボーダーレス化、流動化する世界で、文理融合の分野横断的な宮本武蔵の二刀流を積極的に、大学学部、カリキュラムに導入する具体的な提案をしている。
さらに縦の改革として、人生3回大学に入るという年齢、世代の混合性を提案する。いまの18歳入学の同質性だけでなく、30歳中年の再知的・体験的社会人の学び、60歳以上の生涯学習という「人生の転轍機」として大学を創造しようというのだ。少子高齢化社会に見合う大学改革である。
その場合、価値軸が、多元化・複雑化・流動化する時代に、入学者の多様化と学生の主体化による人文知の「アクティブラーニング」などの授業改革の試みを含み、普遍性・有用性・遊戯性の大学の知が創造されていくと吉見氏は主張している。
単に人文知が役に立つか立たないかという短期的な視点でなく、21世紀の大学のあり方から、学問論にまで長期的・マクロな見方で書かれていて示唆に富んでいる。(集英社新書