成美弘至『20世紀ファッションの文化史』

成美弘至『20世紀ファッションの文化史』

20世紀ファッションを創造してきたゲザイナー10人を描きながら、衣装だけでなく、美術、消費社会、コピー、マーケッテイング、身体論、サブカルなど広い視野で、20世紀社会を考察していて、面白い。成美氏は、ファッションを社会的プロセスとしてとらえ、デザインの創造と社会変革への意思という観点でとらえようとする。
シャネルを身体の抽象化、機械化という実用・機能の美からモダニズムとし、建築家ル・コルビュジェが住まいを「住むための機械」としたように、ドレスを「着るための機械」としたという。フォードの大量生産や、複製技術の重視も取り入れたという。男女性差の解消もあげている。スポーティ。装飾よりも黒などシンプルな色彩。
英国のウエストウッドのデザインは、70年代のパンクの美学というロックバンドセックス・ピストルズとロンドン文化を「記号論的ゲリラ闘争」と見る。80年代は伝統に戻るが、ポストモダンが色濃いし、反逆のコラージュは守っている。
社会的プロセスとしては、アメリカのジーンズの発明から、アメリカン・カジュアルとしてマッカーデルが取り上げられている。、大量生産、活動性、シンプルさは、シャネルとの共通性があるという指摘は面白い。
ロンドン・チエルシー文化から生まれたミニスカート革命は、20世紀の記号として論じられる、そのデザイナー・クアントは、身体のラインを幾何学的な直線に還元する。ラインの直線性はディオールクレージュのモダンと共通するが、クアントは10代に対する量産ブランドにしていく。ここに「少女性」や「かわいい」が出てくる。
成美氏は、ミニ革命を着飾り見せる装飾のデザインから、身体の動きの自由な軽さ、触覚性内発性、さらに60年代の彫刻・構築的スタイルとしている。そうしたファッシヨンを脱構築したのが、80−90年代の川久保怜氏のコム・デ・ギャルソンである。ボロ・ルックなどといわれたが、自立した女性のための衣装を目指していた。成美氏はいう。アシンメトリーを強調し、ジャケットから袖や身頃を取り去り、一枚の布地でドレスをつくり、異質の素材をつかい、男女差の融合、ランダムな再編集など、ポストモダンのデザインだった。
いまグローバルブランドとしてアルノー率いるLVMHがファッション界を牛耳つて居るが、ベルギーからマルジェラなど川久保氏と共通性があるデザイナーがでてきていることは、デザインの後進国・辺境性が日本、ベルギーと似ているのも興味深い。(河出書房新社