諸冨祥彦『フランクル』

諸富祥彦『フランクル

           20世紀の名著『夜と霧』の著書で精神科医フランクルの思想形成や、ロゴセラピー(実存分析心理療法)の核心を述べた諸富氏の力作である。ナチスアウシュビッツ収容所などから、奇跡の生還をしたフランクルの苛酷の体験を生き延びた思想の在り方がわかる。
           若きときフロイトアドラーの出会いと別離を経験し、自己の心理学を形成していく。アドラーは、人間は自分の目的を自覚的に選択することに重きを置く。フランケルは、人間精神を自分でない何かに向かう「志向性」におき、自己超出性を重視する。主観を超えた価値や意味を見つけ、応答していく。心の内部にとどまらず、使命や仕事、他者への愛や奉仕など超主観的価値や意味で、人生を生きる。
           フランクルを収容所で支えたのは、発見的楽観主義で何かが、誰かがあなたを待っているという召命だったのがわかる。フランクルのセラピーは、人が人生の意味を見出すのを援助することで、心理学主義や内省からの脱却により「空虚な実存」をケアしようとする。
           諸富氏はフランクル思想のキーワードを、①苦悩する人間存在②「何々のための苦悩」愛する人。亡き人など「のもとにあること」の重視③人生からの求めを重んじ、自己中心でない④意味への意思、応答性と責任⑤脱内省、自己離脱⑥人生に与えられた「使命」の重視などから論じている。
フランクルによると、自己は「トラウマの犠牲者」でなく、「人生の使命へと導かれた者」として理解されるのである。諸富氏は、日本の森田正馬の「森田療法」との親近性を指摘しているのは興味深い。仏教、ユダヤ教キリスト教などの宗教との近さも感じられるが、フランクルは宗教との関連は否定している。(講談社選書メチエ