[ストリッカー『鳥の不思議な生活』

ノス・ストリッカー『鳥の不思議な生活』

ストリッカー氏は、アメリカ鳥類学者で南極からオーストラリアに至る地帯で鳥類観察をしているだけあって、面白い本である。鳥の生態を深く掘り下げるだけでなく、人間の知性、感性、社会生活と関連させて論じている。
オウムとヒトの音楽への異常な愛情では、音声模倣とリズム感覚と踊りは、オウム、象、人間での共通性を指摘し、オウムが進化の途上でどうしてそういう能力を身につけたかを述べている。その際言語学者チョムスキーの生得文法や、心理学者ブラウンの音楽言語仮説まで引用される。
鏡を見るカササギでは、カササギは知能が高く、泥棒カササギとか、光り物に執着するヒトを「カササギ症候群」というほどだ。だが鏡の実験だと、自己胸像を把握し、自己認識と他者理解にもたけているのが、分かってきた。ハトはだめだった。
ムクドリの群れは、複雑なシステムを相互作用から「創発」する自己組織系から解こうとしている。直近の7羽だけ見て飛び、何千羽の群れを作るメカニズムを調べている。ハチドリは小さなジェット戦闘機の敏捷性をもち、「ナノ・ドローン」として米国防省で研究されたが、燃料を常に満たんにしなければならず、凶暴で攻撃的だという。
ニワトリの「突っつき順位」の階層性を、赤い色への攻撃性と、雄雌の三角関係から論じているのも面白い。ニワシドリの誘惑の美学では、もてるために、緑と白の色彩によって装飾したピカソ的な構築物を建設し、雌を誘惑しようとする。性選択と芸術が進化の手段になるとストリッカー氏は見るのだ。
オ−ストラリアアシクイの自分と血縁関係のない鳥の育児を無償でする利他的行動や、アホウドリの長期間の一夫一婦制の愛は、いかにして生まれるかも興味深い。ホシガラスの驚異的な記憶力は、全米記憶力チャンピオンと比較し、「空間記憶」が脳の分析で優れていることを突き止めている。
シロフクロウの放浪癖ヤヒメコンドルの嗅覚能力、ペンギンの闘争・逃走能力、ハトの知られざる帰巣能力など、鳥好きにはたまらない本である。(築地書館、片岡夏美訳)