大河内直彦『地球の履歴書』

大河内直彦『地球の履歴書』

地球科学・地球史の発展は進んでいる。大河内氏は、その成果をもとに、寺田寅彦のような地球随筆を描きだす。随筆といっても科学研究に裏付けられているから、文理融合を感じさせる。寺田よりも、雪や氷の研究の物理学者・中谷宇吉郎の科学随筆に近い。
読んでいて面白い。技術革新により、海底を調べる音響測深技術、地中のプレートの速度を知る磁気測定技術、地震の前兆を捕らえる地下水化学組成を測定する質量分析計、液体燃料を生み出す乾留技術などをもとにした成果から、文学的教養までちりばめて、大河内氏の文章は書かれている。
海底が見える時代では、珊瑚礁島から、巨大な海底火山の謎に迫り、さらにソナー技術をつかい深海に沈んだ船のトレジャー・ハンティングに及ぶ。巨大噴火と気候変動の影響が、地球の広範囲に及ぶ記述もある。19世紀のインドネシアのタンボラ火山の爆発の気候変動が、シェリー「フランケンシュタイン」ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」創作にも影響を与えたとは面白い。
白亜紀の温暖化した時代と急激な隕石衝突の変動の地球史が、黒色頁岩から「パラフィン」油の創成の話まで広がっていく。南極大陸の不思議や、移ろう海面変動の話は、知らないことが私には多くて、興奮して読む。
塩の惑星である地球の塩の科学と、塩の文明史を結びつけて述べている。1970年代に地中海で地質学者が発見した「メッシニアン塩分危機は60万年も続いたという。
アラル海が、干拓で塩分濃度が高くなり、死海のようになり、危機を迎えた。また、有馬温泉の謎を、地下ウラン放射能と結びつけ考えたり、奥羽山脈の秋田焼山と玉川毒水で田沢湖が汚れていくことや、アフリカ・カメルーンニオス湖二酸化炭素による「湖水爆発」の悲劇など。地球の不思議さが、よくわかる。
地震と火山の日本では、教養としてもぜひ読みたい本である。(新潮選書)