ポンティング『緑の世界史』

クライブ・ポンティング『緑の世界史』

 環境史からみた世界史で傑作である。過去の歴史といっても、未来の行く末が見えてくる。ギリシャのヘシオドスは人類史を金の時代から銀の時代そして鉄の時代に頽落していくと描いたが、私はポインティングの本を読んでいてそう感じた。狩猟採取時代の人口も少なく豊かで地球環境に適応した世界から、農業の発明から工業の時代への文明の「進歩」は、自然の蹂躙と世界の汚染への「退歩」の方向に進んでいったともいえる。世界人口は60億人を超え、一種の生物種で地球が占拠された地球は、どうしてそうなったかの歴史をみなければならない。この本は現代教養の重要な基礎文献であると思う。
人類史がいかに地球環境の収奪の歴史であるかを、ポインティングは綿密な調査で驚くべき統計数字をあげながら叙述していく。果たしてその統計が正確かはわからない。野生動植物を絶滅に追いやっていく世界史は、迫力がある。毛皮のため19世紀始めに600万頭のオットセイが殺されたとか、1931年南氷洋で250トンのクジラが捕らえられたが、1979年にたった20トンしかとれなくなったとか、統計は凄まじい。
世界の汚染史も上下水道の汚染から川の汚染、都市の悪臭、廃棄物の17世紀からの歴史が述べられ、地表を荒廃させる鉱毒酸性雨による公害の世界化、森林破壊、農薬使用の生態系破壊、有毒廃棄物の氾濫から処理できない核廃棄物まで、フロンガスオゾン層破壊から地球温暖化までの世界史を辿っていく。エネルギー獲得のため再生できない石油・石炭などの化石燃料の浪費も逃されていない。地球資源の破壊は土壌、水、生物多様性の破壊にまでいたっている。この本を読んでいると、人類とは地球を蕩尽し、死に至らしめるウィルスのように思えてくる。人類史は今後どう展開していくのかを考えさせる本である。(朝日新聞社、石弘之・京都大学環境史研究会訳)