ウイリアムズ『ガラスの動物園』

テネシー・ウィリアムズガラスの動物園

 
アメリカ20世紀の劇作家ウィリアムズの傑作戯曲だ。家族が外部にたいしては一体化するが、内部では親子相互は孤独であり食い違いをもつため、愛情があるだけに干渉が強くなり、奥深い断絶になるという家族悲劇である。この戯曲は「追憶の劇」の形式をとり、家出した息子が、遠くの街で引きこもりの壊れやすい姉を追憶する舞台回しを演じながら、姿を消した父、娘時代の華やかな輝きを追憶する母、ハイスークル時代の初恋を追憶する姉との生活を描き出す。追憶は喪失から生じている。競争社会アメリカで成功しなかつた「負け組」の悲しさを描くサクセスストリーの裏面が、ヒューマンな視点で演じられていく。
母アマンダは娘時代南部で農場主の息子にもてて求婚された栄光が、しがないサラリマンと結婚し、酒とDVの夫が蒸発したため挫折する。働きながら娘と息子を育て成功を夢見るため、口やかましい母親になる。子供への愛情が子供を縛っていく。娘ローラは内気で脚が悪く引きこもりであり、ガラスの動物の収集に明け暮れる。ガラスの動物のように壊れやすく、母が結婚させようと食事によんだ初恋の青年紳士とのダンス場面は圧巻なシーンである。その紳士には婚約者がおり、其れを聞きユニコーンのガラス動物の角が砕かれる場面は、ローラが精神病院に入り廃人になることを予想させる。弟は姉に愛情をもつが、成功の冒険のため母の干渉からの自由を求め家から飛び出す。
アメリカの夢という成功への欲望は、家族の絆を壊し喪失感を深め、悔恨を深める。(新潮文庫小田島雄志訳)