イ・ビョンフン『韓流時代劇の魅力』

イ・ビョンフン『韓流時代劇の魅力

 日本のテレビでも韓国のドラマが人気である。日本のテレビドラマが低調ということもあるが、やはり韓流ドラマは面白い。韓国人はドラマ好きで製作本数も多いし、週2話ずつ放映する国はないだろう。ドラマの高視聴率も韓国では凄く60%台をしばしば出す。日本なら20−30%でれば成功とされる。韓流時代劇の代表的監督イ・ビョンフンが自作「ホジュン」「商道」「宮廷女官チャングムの誓い」「イ・サン」「トンイ」について語り、いかに時代劇を制作してきたか、どう時代劇を作り出していくかを語った本である。日本ではいまや時代劇は低迷し衰亡しつつあるのに、「ホジュン」は韓国で63%の高視聴率を得ている。
ビョンフン監督によれば、韓国人は外国支配や独裁政権の圧制など受難の歴史があるため、その苦難を忘れさせ、カタルシス(浄化)を感じさせるドラマを望むという。ビョンフン監督自身も7歳のときの朝鮮戦争で父が行方不明になり、母子家庭で苦労して成功した人物である。「ホジュン」や「チャングム」のように、苦難の人生を戦い、大成していくサクセス・ストリーがビョンフン監督の人生にもあると思う。この本でビョンホン監督は青少年のために暴力は美化せず、歴史を歪曲しないドラマ作りを心がけていると語っている。だがもっとも重要視しているのは「視聴者に楽しんでもらう」という大衆娯楽を心がけていることだとも言う。
時代劇が出来るまででは、人物を訪ねて歴史の中に素材を探す苦労は大変なものだ。韓国ではまだ貴族や支配階級の子孫が存在し、救国の英雄の顕彰会もあり、取り上げ方では議論を呼び、抗議も殺到する。想像力を発揮できる人物を探すことが重要であるという。たしかにホジュンチャングムのような宮廷医官という周辺人物のサクセス・トリーは巧みな設定だ。支配階級を扱うとしても、トンイのように最下層から王の母になり、朝鮮最高の名君を育て上げた女性を主人公にする。歴史で疎外された人々が厳しい暮らしに屈せず立ち向かうという民衆史観があるから、男性より女性、貴族より庶民の人生の掘り起こしに力点が置かれる。役者とキャスティング、撮影など私は読んでいて、その厳しさに日本の黒澤明蜷川幸雄を連想した。また美術で若者層を掴むため衣装(チマチョゴリなど)を明るくパステルカラーにしたり、音楽でクラシックや国樂でなくオリジナル・サウンド・トラックを導入したりしている。日本のTVドラマでも学ぶことは多いと思う。(集英社新書、白井美友紀訳)