マクニール『世界史』

イリアム・H・マクニール『世界史』


 グローバル時代の世界史として書かれている。20世紀半ばにトインビーによって複数の世界文明の遭遇と「挑戦と応戦」による世界史『歴史の研究』が書かれたが、マクニールの世界史は半世紀後に書かれた世界史で、ソ連崩壊という20世紀の終わりまでが視野に入れられている。ユーラシア文明の誕生(紀元前500年)から、諸文明の平衡状態(紀元前500年―1500年)西欧の優勢(1500−1850年)地球規模でのコスモポリタニズムの始まり(1850−2000年)までが描かれている。
 ヨーロッパ中心史観ではないが、西暦1500年までは文明の辺境だった西ヨーロッパがなぜ自己変革で世界制覇し、コスモポリタニズムを創り出していつたかが大きな世界史の変わり目として解明されている。西欧文明に対してのイスラム文明、アジア文明、アフリカ、オセアニア南北アメリカ文明の挑戦と応戦もトインビーとは少し違うが詳しく考察されている。
I・ウォーラーステインは、『近代世界システム』でヨーロッパ世界経済が16世紀に始まり、それによる世界システムの分業体制の成立が、中央と辺境(低開発諸国)の支配―従属を創り出したと述べたが、どちらかというと経済中心の考えが強よかった。マクニールは封建制からの西ヨーロッパの自己革新を、産業革命と民主革命の二点から解き明かし、文化、自然科学、芸術、宗教まで目配りしていて面白い。またイスラム文明や中国、日本の歴史にもハッとするような指摘が随所にあって面白い。
マクニールの結論はこうだ。「人間の行為(または行為の抑制)が、人間相互や人間を取り囲む自然界にどのような影響を与えるかは、完全に予見できない。これはここにおいても同じだった。しかし、人間の計画的な行動によって、変化への道が広く開かれている未来には、すばらしい可能性と、それと同じくらい恐ろしい破滅がひそんでいる、と結論しなければならない」(中公文庫、増田義郎佐々木昭夫訳)