国立歴史民俗博物館『被災地の博物館に聞く』

国立歴史民俗博物館編『被災地の博物館に聞く』

 東日本大震災は地域博物館を壊し、歴史・文化財資料も多く津波で被害を被った。岩手県陸前高田市立博物館は壊滅し職員全員が犠牲になり、国・県指定文化財は水没した。昭和後期に地域博物館が多く建設され、自治体で地方史研究が進んだため、資料の現地保存、民具・祭祀資料の保存が行われていたため、その損害は大きかった。国立歴史民俗博物館でも、2013年オープン予定の民俗室に気仙沼市小々地区の江戸時代の大網元・尾形家住宅のカミ・ホトケなど民俗的祭祀の展示をおこなおうとしていたが、津波で尾形家が百数十㍍流され母屋の茅葺屋根が港の付近で発見された。この本は岩手、宮城、福島の博物館で地域の失われた歴史、生活文化の記憶が凝結されている文化資料をレスキュー活動でいかに修復していくかの苦難の活動を描いていて、頭が下がる記録である。この活動記録そのものが50年後100年後の「未来の博物館」の記録として残される資料なのではないかと思う。
 岩手県立博物館の赤岩英男氏が書いている陸前高田市津波から救出された資料の復元作業の苦心は凄いものだ。江戸時代の吉田家住宅にあった「吉田家文書」4000点は岩手県立博物館に運ばれた。だが海水に浸かりカビ発生の危険のなか、一冊一枚ずつ泥を取り除き水洗し、脱塩をし、瞬間冷凍乾燥や日干しなどで乾燥させていく「安定化処理作業」は、人手不足の中で行われている。赤岩氏によれば、人文系・自然系の海水損した資料の安定化処理方法はまだ未確定で、処理後の長期保管にも経過観察など細心の注意が必要だという。
 福島県文化振興事業団の本間宏氏の報告は、地域資料を守るのは文化財だからではなく地域の財産として残そうとしているためなのだと語り、原発事故による急激な地域崩壊のなかで、いま福島で生きていけるのかという切実な訴えは、歴史文化資料の保存の基盤そのものが喪失する危機を感じさせる。官・民・学の連携による歴史資料救済ネツトワークの活動や、「全国歴史民俗系博物館協議会」の大震災後の設立は、今後の震災を考えると重要なレスキュー隊の基盤になるだろうと思われる。(吉川弘文館