スバィヴィ『ギリシア美術』

ナイジェル・スパィヴィ『ギリシア美術』


 ギリシア財政危機の中、国立西洋美術館で「古代ギリシア展」が開かれている。この本は数多くの図版も含み、ギリシア美術を知るためにはいい本である。日本では2000年に出版されている。この本を読み私が感じたこと記してみる。
① いま古代ギリシア彫刻として残っているものは、ローマ時代のコピーが多い。オリジナルは残っていない。「円盤投げ」にしろ「優勝選手の像」にしろ、原作は紀元前5世紀だが、今あるのは起源1世紀のローマ時代のコピーである。コピー国家ローマの模作は果たして原作通りかが疑がわしい。ローマ的価値観、例えば冷たい合理性で偏向されていないか。オリジナルが無いコピー文化でしか、古代ギリシアを見ることができない皮肉を感じる。
② 日本の仏像は宗教の手段としての宗教芸術である。だが古代ギリシアでは、芸術(建築・美術・演劇・運動競技など)そのものが宗教である「芸術宗教」だったのではないか。
神、英雄(半神)、人間は「神人同型説」で理想型の普遍性で人体が彫られた「人像」だつた。だからギリシア宗教には経典も司祭もなく、祭儀と芸術が宗教の核心だった。神は人であり、人が神であった。民主主義と多神教は関連がある。「歴史」と「神話」は切り離されていない。ペルシア戦争の浮き彫り作品は、巨人族やアマゾン族との戦闘に置き換えられて描かれる。
③この本でスパィヴィ氏は、紀元前2000年ミュケナイ文化の線文字B解読で、ギリシア文化と繋がっていると指摘し、暗黒時代を通って(まだ謎である)古典時代までの歴史をたどる。その場合重要視されるのが、多く出土している陶器で、その幾何学的文様や人物像、戦闘場面が描かれているのを重視している。すでに幾何学文様に古典期の秩序ある均斉と生命の躍動が見られると考えている。陶器の重視は面白い。(岩波書店、福部信敏訳)