森山大造『昼の学校 夜の学校』

森山大道『昼の学校 夜の学校+』


 路上生活四十年といい、街頭のスナップショットを撮り続ける写真家・森山大道氏の若者への講義録である。民俗学者宮本常一は日本中をつぶさに見て書いて、凄くいい記録写真を膨大量残していて、とても足元に及ばないと森山氏はいうが、新宿、大阪、北海道、横須賀、ハワイ、ブエノスアイレス、ニューヨークと街頭を撮り続ける写真家の写真論は、大変面白い。写真とは何か、写真の魅力、森山氏の写真技法まで語り尽くされている。
都市は人間の欲望の集合体という。「新宿という街はぼくの目にはあらゆる欲望のスタジアムに映る」と語る。いまはデジカメに転換しつつあるが、森山氏はジーパンの尻ポケットにGR21カメラを入れ、街に出てノーファインダーで先ず撮る。一瞬に感応した必然に対して偶然を期待する。街に漂う必然と偶然がショートする。「自分の全身がどこかレーダーのようになっていて、いろいろなものが見えてくる」という。森山氏はモノクローム写真にこだわってきた。フィルム現像も荒々しいラフのものを好む。
写真とは光と時間の化石であるが、何回も生まれ変わる生々しい記憶だとも語る。「ぼくという個人に根ざすさまざまな欲望そのものがすべて写真に結びついていく」という欲望の果てしない循環で写真を撮る。外界や事物はすでに写された存在としてあらかじめ用意されて前にあるとも。シャッター優先。すれちがいさま、とっさに何かに感応し自動的に指が動く。被写体に構図をとらせないのだ。アメリカの写真にはスナップショットが少ない。俳句や短歌のような一瞬の感性の違いか。いま世界で日本の現代写真が見直されている。その一人森山氏のこの本は、写真の魅力を感じさせてくれる。(平凡社ライブラリー