S・パルンビら『海の極限生物』

S・パルンビら著『海の極限生物』

      海洋生物が好きな人には、こたえられない本である。極限の海洋環境で生きている生物が様々に取り上げられ、色彩豊かな写真も魅力的なのだ。その生態もアメリカの海洋生物学者・パルンビ氏の、最新の研究により面白く書かれている。
      深海の煮えたぎるとする80度の熱水噴出孔をただひとつの食料源とするポンペイワーム(写真がきれい過ぎる)、高齢さではハワイ沖深海の4270歳のクロサンゴ、死んだクジラの骨を食べるオセダックス、南極海でマイナスの冷温下で、脅威の天然不凍タンパク質を作り生きるコウリウオ、ナンキョクオキアミ、メカジキは眼球ヒーターを使い視覚を向上させる。
       オセダックスは、メスばかりで眼のないゾンビワームだが、チョウチンアンコウのオスは、何十倍大きい凶暴なメスを探し、寄生し融合し一体化して溶け精巣だけ残し子孫を残す。タツノオトシゴはオスが妊娠し、子育てをする。その生態も詳しく述べられている。逆にミズダコのメスは、六ヶ月も何も食べず卵の世話をし、コダコが巣立つと死んでいく。メスは次世代の義務を果たし気高い死を遂げるが、オスは老化認知症で捕食されていく。
       海の極限生物は、狭いニッチ(生き場所)で特殊化した専門店経営に似ているとバルンビ氏はいう。ちょっとした環境変化で絶滅する。1度の海温上昇、二酸化炭素の炭酸化による酸化は富栄養化をもたらし、単細胞藻類の増殖の赤潮など起こす。さらに人間の乱獲は、食物連鎖の断絶をもたらす。クラゲの海になり、サンゴは窒息していく。海面上昇は、近海や潮間帯の生物に大きな影響を与える。
       海の生態系は極限にきている。だが、人間が効果有る対応をとれば、海洋生物は極限を生き続けてきたのだから、海は生き返るとパルンビ氏はみているのである。(築地書館