小出裕章『100年後の人々へ』

小出裕章『100年後の人々へ』

 原子核工学者で、42年前の女川原子力発電所建設反対運動に参加してから、一貫して反原発の立場に立つ小出氏が、福島原発事故の3年目に率直に自分の在り方を語っていて、好感をもった。生きている間は原発ゼロを諦めず、生まれ変わったら生涯を廃炉技術に捧げたいという小出氏は、「私は原子力の平和利用という夢の物語に騙された人間」だという。
  高校生の時、地質学者に成ろうと思っていた小出氏が、原子力の平和利用のため、未来のエネルギーだと信じて役に立つ科学者にと、東北大の原子核工学に進んだ。だが女川原発反対運動に参加して安全性に疑問をもち「転向」する。いまや科学が金儲けの道具になっているといい、「科学は役にたたなくてもいい」とも言い切る。
 小出氏が属する京都大学原子炉実験所には「熊取6人組」という原発反対科学者がいるが、大学も「原発マフィア」に組み込まれているため、少数者である。福島原発事故が起きた時、原子力研究者に緘口令が敷かれ、京大でも所長がデータを個別に発表してはいけないと指示を出したが、小出氏は私に説明を求めてきたデータは発信しますと従わなかった。小出氏は教授になれず「助教」で64歳を迎えたが、誰にも迫害されない自由な人間として生きているという。
  漏れている汚染水は敷地にしみ込み、福島原発敷地は「放射能の沼」の状態になっており、長い時間をかけ海に流れ込むと小出氏はみる。「放射線管理地域」は約2万平方㎞と見て、仮に年間1ミリシーベルトの被曝で膨大な数のガン患者がでると予測している。ウラン燃料取り出しも何十年もかかり、コンクリートで原子炉を覆う「石棺方式」とるとしても、その前に使用済み燃料プールから取り出さなければならない。その長い期間どうするのか。
 小出氏によると、科学は放射性廃棄物を無毒化できなかったし、未来の科学もできないだろう見る。地震大国日本では地下に埋める方法は諦めるべきとも主張している。また原発推進は、ウラン燃料が70年で枯渇するから今後不可能だと見る。10万年も隔離するという「放射能の時間」と、短い利益の視野の「人間の時間」を考えると、未来に対しても不安はある。、現在の子どもや、生物に対して向き合うために、小出氏は「優しさは、沈黙の領域へのまなざしに宿る」と主張している。(集英社新書