フォーティ『生きた化石生命40億年史』

リチャード・フォーティ『生きた化石 生命40億年史』

  三葉虫研究の権威である古生物学者・フォーティが、何十億年も生存してきた「生きた化石」を求めて世界各地の棲息地を訪ねる旅をしながら、生命40億年史を描いていく。だが、その視点には、絶滅危機を乗り越えた生命が、人間という最近種により減少し生物多様化が壊されていく危惧がある。
  アメリカ・デラウェア州の真夏の海辺の真夜中に、砂に上陸する大量のカブトガニの受精・産卵を見に行く。大きなメスは甲羅が45センチある。この生物はカニではなく、絶滅した三葉虫と同じ節足動物だ。成体まで生きる卵は100万個のうち33個だ。2億4000万年前のペルム紀から続くとフォーティ氏はいう。青い血液で侵入してきたバクテリアを凝固させるため、いまや製薬会社で商業化されつつある。
  フォーティ氏はニュージランドに飛び、カンブリア紀の葉足動物カギムシを探し、オーストラリア・シャーク湾にシアノバクテリアという真核生物が登場する以前の光合成の藻類を見に行く。ここで24億年前の酸素革命や、葉緑体ミトコンドリアを取り込み「共生」で真核生物が誕生することが述べられている。
  イエローストーン公園にいき、熱水泉で暮らす硫化水素や硫黄からエネルギーを得て細胞分裂する「古細菌」を観察し、生命の最初期から続くスルフォロスを考察する。中国香港の沿岸に無背椎動物シャミセンガイを見て、オウムガイや絶滅したアンモナイトから軟体動物の歴史をフォーティ氏は描いていく。マリヨルカ島のサンバガエルも訪ねる。植物から動物までの誕生が綿密に具体的な歴史で追跡されていて、面白い。
 生き延びた「化石」は、過去の体制を抱えながら、分子構造は少しずつ変化しながら、5回の大量絶滅期を生き延びてきたという。フォーティ氏によれば、「生き残り」はみな一定の「棲息地」が重要だったという。
シャミセンガイは潮間帯の泥砂の環境が大切だ。「適所生存」だという。生物は気候変動でも自身の「棲息地」に似たところに移動する。「時の避難所」だ。資質に関しては、フォーティ氏は生き急ぐことがないことを挙げている。ワニは御馳走がくるまで、いくらでも待ち続ける。また、大きな卵を産むか、少ない数の子どもを産むことも共通点だと見ている。だが、「生きた化石」も、ヒトという種によって絶滅されていく。(筑摩選書)