平野克己『経済大陸アフリカ』

平野克己『経済大陸アフリカ』
 6月1日横浜で第五回アフリカ開発会議(TICADV)が開かれる。平野氏の本はアフリカ経済論を、グローバルな視点から描いていて参考になる。いまやアフリカは、貧困削減の支援を受ける大陸から、各国各企業が競合して経済展開する前線になっているというのが、平野氏の見方である。21世紀になって、「南々支援」のかけ声で、中国のアフリカ攻勢が顕著になっている。「中国アフリカ協力フォーラム」が3年ごとに開かれている。その根源に「ビジネス=援助ミックス」があり、石油、天然ガス、鉄鉱石やレアメタル、プラチナなどの膨大な資源輸入がある。中国の資源経済でアンゴラが自立に向かうなどは象徴的である。
 資源開発がアフリカを変えると平野氏は指摘している、世界からメガプロジェクトがアフリカ投資を呼び込む、だが平野氏は赤道ギニアのように資源依存で「開発なき成長」という「資源の呪い」も緻密に分析している、これは「オランダ病」という北海油田発掘で製造業が衰弱していった先例もある。生産貢献の「利潤」でなく、「地代(レント)」が資源には発生し、生産志向の希薄な、国家主義的な保守政治が、「消費爆発」で現状維持の開発志向が欠けた社会になるという指摘は重要である、
 この本で注目されるのはアフリカが世界の食料安全保障を揺るがす震源地と捉えられていることだ。日本も穀物輸入大国だが、アフリカはそれを超えたという。それはアフリカの都市化率が急上昇し、輸入による食料依存が増大しているからだ。他方、アフリカの食料生産は停滞している。土地生産性は世界平均の三分の一以下であり、
肥料投下などの近代農業が進展せず、それが工業化の足を引っ張る。ノーリシャスのように成功例があるが、農業開発による食糧自給が、今後のアフリカの課題だと平野氏は見ている。
いまアフリカにはグローバル企業が続々参入してきている。起業も南アフリカなど顕著である。携帯電話の普及に見られるように、アフリカの潜在需要は大きい。54カ国も国家があるアフリカは確かに「国境」がネックである。市民社会化による消費者主権をいかにかくだいしていくかも、グローバル企業の社会貢献の精神とも関わってくる。日本とアフリカの相互利益は、いま自動車産業で支えられているが、今後資源産業や農業開発で官民一体で、いかにアフリカと関係していくかが課題となるだろう。なお平野氏のアフリカをめぐる国際開発論の歴史を、南北問題から、市場機能重視の「構造調整」援助論、新自由主義的援助論を通って、「人間の安全保障」の開発論まで辿っていて参考になる。(中公新書
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