佐藤百合『経済大国インドネシア』

佐藤百合『経済大国インドネシア


21世紀に入ってからのインドネシアでの民主主義革命と、BRIC(中国、インド、ロシア、ブラジル)に次ぐもう一つの「I」としてインドネシアが新興経済大国を歩む「安定と成長」の現在を、総合的視点で描いた本である。2004年に、それまでのスハルト権威主義的開発主義から決別し、「民主主義と開発」を両立させるユドヨノ大統領の時代にインドネシアは、中国とインドに次ぐ経済大国として世界に注目されている。佐藤氏があげる成長の要因は、人口規模の大きさ(2億4千万人)や石炭、天然ガスレアメタルなど資源の大きさ、さらに6%の成長率、地方分権汚職撲滅などの行政改革、外国からの援助依存からの脱却、「フルセツト主義Ver、2・0」という総合的な経済開発戦略などを挙げている。
佐藤氏の視点の面白さはそこに留まらず、「人口ボーナス」という考えで、今後インドネシアは生産年齢人口が増大するが(老いるアジアや日本とは逆)、それの就業機会を広げる6%成長と人口抑制政策が成功すれば、人口パワーが発揮されていくという指摘だ。さらに資源輸出が脱製造工業化を招く「オランダ病」にならないように工業化は退行させないが、同時に農業・農園業、サービス業や付加価値を作り出す方向を模索しているという指摘である。またユドヨノ大統領時代の民主主義体制をよく分析した本である。同時に財政改革から官僚改革に挑むアメリカ・バークレー校留学の「バークレー・マフィア」など経済テクノクラートや、産業ブルジョアとしての先住マレー系プリブミ企業家や華人企業家が軍人に代わって政治の表舞台に出てきたという分析は面白かった。
また日本とインドネシアは、震災・津波という共通の災害国で災害援助・防災の共闘相手でもある。科学技術の政府高官の多くは日本留学で科学技術を学んでいる。日本語学習も世界三位の72万人、マンガ・アニメなど日本文化愛好者(プチンダ・ジュパン)も多い。貿易・投資・援助とも日本が最大である。 佐藤氏は、だが日本のインドネシア観は戦前の「南進」時代からかわらないといい、日本の態度の変革を要望している。同感だ。(中公新書