内田貴『民法改正』


内田貴民法改正』 
ここでいう「民法」とは親族法、相続法でなく経済活動をめぐる「契約法」改正をいう。驚くべきことに民法のこの部分は1896年(明治29年)制定時からほとんど改定されていず、100年ぶりの改正になる。2004年に民法現代語化がおこなわれたが、市場経済グローバル化はじめ、市場経済の発展にそぐわなくなっているのも確かだ。内田氏は債権、担保、物権の民法学の専門家だが、「新しい契約の時代」に国際的に通用する民法を作ろうという一人だ。
 なぜ日本民法が明治制定期のままなのかは、日本近代文明のあり方として分析する内田氏の視点は納得できる。明治期の日本民法はフランスとドイツ民法の折衷として「輸入」された。エリートの法学者が作成したため抽象的・概念的に簡潔な条文で書かれていて、一般国民には読みにくいものになった。それが日本人の契約紛争を法廷・裁判でなく解決する精神風土が補完した。また専門教育を受けた裁判官が、法学者の精緻な解釈論をもとに「解釈重視」で判例を出したため、民法典の「透明性の高い公正なルール化」は必要なかった。だが、21世紀のグローバル化など「法化社会」の到来で明治維新期、戦後改革に次ぐ第三の法制改革時代に日本は入った。わかりやすい司法とわかりやすい法典が国民に必要となった。
 わかりやすさとともに「民法の現代化」の必要を内田氏は指摘している。時代にあわなくなつたり、明治の制定期になかった現象、さらに自然災害の多い日本に適した条項の必要が出てきた。内田氏は、消滅時効、法定利率、約款、サービス契約、銀行取引契約、自然災害の契約改定など裁判になった事例をあげて説明していて説得力がある。民法がわかりやすく改定されれば、裁判員制も民事裁判に導入される可能性も出てくる。契約の根本にある信義誠実や、不法行為の損害賠償は「常識=良識」を根源としているからだ。21世紀の市場で、透明性の高い公正な現代民法が作ることができれば、日本は世界に誇れる法をもつことになる。改正に注目したい。(ちくま新書