堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』

堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』『ルポ貧困大国アメリカⅡ』


 アメリカでは金融街ウォールの近くの公園を占拠したデモが続く。反格差と失業からの雇用が深刻化している。堤氏のこの本は、こうしたいまアメリカが抱えている問題を抉り出した力作である。第一冊目では新自由主義の民営化という「行き過ぎた市場原理」で生まれた貧困が逆に貧困児童を生み出す矛盾、サプライムローンや台風カトリーナという自然災害での経済難民、「落ちこぼれゼロ法」という教育改革で軍隊に行く若者、移民に市民権をあたえる引き換えに軍隊に入隊する「経済徴兵制」、さらにワーキングプアーの増加を取り上げた。ここではアメリカの中産階層が貧困層に転落して、貧富の二極化が進む実態が具体的に描かれていた。
二冊目では、チェンジを訴え政権交代したオバマ大統領のもとで、状況は変わらず悪化している現状が描かれている。そこには「借金大国」アメリカが見えてくる。学資ローンで公教育が借金地獄に変わり、社会保障が崩壊し高齢者カード破産、年金破綻、失業と非正規社員で苦しむ若者、医療改革で保険会社や製薬会社の「医産複合体」だけが富む構造、刑務所が巨大労働市場になり、囚人さえ借金づけになり、安価な労賃利用のためホームレスまで収容し刑務所が成長産業になるという驚くべき実態が明らかにされている。
 堤氏はこの状況を、資本主義というよりも、戦争を望む軍産複合体、学費ローンビジネス、労働組合や医産複合体など政府と手を結び利権を拡大する政府=企業癒着の「コーポラチズム」が原因だと指摘している。それを巨大な資金を投入したマーケティングとメディアが後押しする。オバマ選挙に莫大な献金した業界が、税金を湯水のように投入されているという実情がある。なぜオバマはチェンジが出来ないのかが、もう少し分析して欲しいところだ。(二冊とも岩波新書)