浜本隆志『窓の思想史』

浜本隆志『窓の思想史』



浜本氏によると現代は「窓の時代」だという。世界の都市では「ガラス箱」のような「窓の増殖現象」がみられる超高層ビルがどんどん建てられる。これに対し日本の伝統文化は障子・襖、平屋建てである。浜本氏はヨーロッパ文化を垂直志向、日本文化を水平志向という座標軸で文化論を展開している。ヨーロッパでは窓の開閉が外の「押す文化」であり、それは回転という文化と連携しており、螺旋階段の多用から、ネジとシリンダー回転モーター機械につながる発信型文化にいきつくという。
 他方日本文化では障子も玄関、雨戸、ガラス窓も「引く文化」であり、お寺の鐘も水平に鳴らすが、ヨーロッパは鐘を回転させ鳴らす。障子の半透明性、縁側の存在は外からの受信型文化と指摘する。建築のあり方から文化論を展開するのは面白いが、強引すぎる点もいくつかみられる。鉄とコンクリート、ガラスの機能的建築は、近代の西欧化で日本でも抵抗なく、取り入れられ、高層化も蔓延しているからだ。中世、近世文化では垂直と水平の二項対立で文化論は成り立つかもしれない。
 浜本氏の本はさらに「窓」を自動車、新幹線、飛行機の窓から、カメラや映像としてテレビ、インターネツトまで広げて論じようとしている。確かにネットではウィンドウズというが。このあたりは、もう少し深めて論じて欲しかった。なぜなら浜本氏は資本の論理が生み出した「窓の増殖化現象」の矛盾を抑制するために、日本的「水平志向」を重要視しているからだ。アニメや伝統的絵巻物のような水平化、伊勢神宮の20年建て替えの循環性を「スーパーフラット」として、対称性、平等性の共生社会の中核と主張しているからだ。「窓」という一点からイメージが次々と繰り広げられて、ヨーロッパ、日本文化論が絵巻物のように繰り広げられていくのが楽しい。(筑摩選書)