チョムスキー『アメリカを占拠せよ!』

チョムスキーアメリカを占拠せよ!』

 2011年9月ニョーヨークで自発的に起こった「占拠せよ・オキュパイ運動」は富裕層(金融資本など0・1%)と貧困層を含む一般市民層(99%)との階級格差から生まれた抵抗運動である。オキュパイ運動は、60年代以降の公民権運動からベトナム反戦運動以来の非暴力大衆運動である。この中心にいる言語哲学チョムスキーが、占拠運動について語った本である。アメリカの草の根民衆運動におけるリベラルを代表する哲学者が、80歳を超えての活動は、かつての英国の哲学者バートランド・ラッセル反戦運動を連想させる。私は以前にチョムスキーの『覇権か、生存か』(集英社新書、2003年)というアメリカの軍事主義批判の書を読んだが、こんどの本は国内の階級格差の批判運動が述べられている。すでに6千人以上の逮捕者がでているとは驚きだ。
いまアメリカがおかれている富裕層と貧困層の階級格差の大きさは、マルクスの古典的な階級理論に当てはまる階級対立の事態になりつつあるのではないかとも思ってしまう。経済の一部資本層への集中は、政治の金権化や情報の操作化を伴っている。それによる国民大衆の消費市場主義、受動性、無関心、傍観者を引き起こしているが、そこに風穴を開けようというのが、オキュパイ運動ともいえる民主的参加による新しいコミュニティの創造を作り出そうという運動である。チョムスキーが語るところを読むと、マーティン・ルーサー・キング公民権運動やハーワード・ジンの反ベトナムの伝統を引いていることも分かる。アメリカ大統領選挙は金権選挙化しており、非民主的とチョムスキーは語っているが、直接民主主義の考えが強い。
チョムスキーによれば、オキュパイ運動には二つの流れがあるという。一つは政策指向の流れで根源的不平等をなくすために、金融取引税導入や、企業法人格を剥奪し、選挙資金を工面させないことや、労働者やコミュニティの企業所有などを推進しょうとする。もう一つは、原子化した個人の孤立状態を克服するためのコミュニティを創造しょうという流れでチョムスキー教授は、オキュパイ運動ではこれが重要だと述べている。新自由主義草の根運動には、テイパーティ運動もあるが、チョムスキーは企業から献金されているとして批判している。(ちくま新書松本剛史訳)