吉村典久『会社を支配するのは誰か』

吉村典久『会社を支配するのは誰か』

 株式市場を至上として株主支配を貫徹し、社外取締役を経営に参画させ、経営意志と事業執行を分離した「執行委員制」を導入し、事業部制や役員高額報酬公開などを重視するアメリカ流企業統治が、「グローバル・スタンダード」として、日本企業にも取り入れられてきている。その反面、その代表企業GMが破綻し、ソニーが実施し流行した社外取締役や執行委員制は必ずしもうまく機能しているとはいえない。吉村氏は、現代の株式会社の企業統治を日米企業の比較をもとに、ポスト株主資本主義を視野に入れながら、どう変えていくかを考えていく。
アメリカ企業エンロンワールドコムからリーマン・ブラザースやGMの破綻はいかに生じたか、日本でのオリンパス粉飾決算大王製紙の経営者の背任の巨額賭博など企業統治の問題は尽きない。吉村氏はアメリ企業統治と違い、日本では機関株主やメインバンク支配ではなく、部課長など従業員ミドルクラスの「民主的」総意でいかに企業統治が行われているかを、三越の社長解任、ヤマハやセイコウインスツルの経営者解任の事例をもとに、従業員集団による統治をアメリカとの相違と考えている。日本的経営と似て江戸時代の藩や商家(三井家や近江商人)でも、不当な藩主や主人が「押し込め」という解任の伝統があったと吉村氏は指摘している。
株式会社の株主利益至上でなく、消費者顧客や従業員を重視し創造性ある経営を目指し、株式会社制に批判的な企業家として、アメリカではヘンリー・フォード、日本では出光佐三を吉村氏は分析している。面白いことに、現在のグーグルやフエイスブックなどの企業は、フォードと同じように、株式市場に上場しても「複数議決権株式」方式をとり、株主支配を避け、所有権を手放していない。アメリカ流も変わりつつあるとき、グローバル・スタンダードに飛びつくのはいかがなものかと読んでいて思う。アメリカのオキュパイ運動でも従業員所有・経営の会社が称揚されていた。株式会社という制度も変革の時を迎えつつあるのかもしれない。だからといって、日本企業の同族支配、物言わぬ株主、御用組合がいいよいうわけではない。岩井克人『会社はこれからどうなるか』と共に読みたい本だ。(講談社選書メチエ