グールド『パンダの親指』

ティーヴン・J・グールド『パンダの親指』

 グールドの科学エッセイを読んでいると、寺田寅彦のエッセイを連想させる。グールドは進化生物学、古生物学の専門を背景に、広い知識でユーモアをもって進化論のエッセイを書く。表題になっている「パンダの親指」では、パンダがなぜ親指が独立し6本の指を持っているのかを、餌の竹の茎を掴むため手首の骨の拡大でまにあわせるという進化の不完全性と複雑性から述べている。グールドは「区切り平衡説」という独自の進化説を唱えており種の大多数の系統は大半を通じて変化しないが、時たま急激におこる種分化が平衡に区切りをつけるという。これはダーヴィンの自然は飛躍せずという漸移説とは違う。「進化的変形は突発する」でこの理論が説かれている。
恐竜に関して、「恐竜は愚鈍だったのか」で恐竜が温血動物で、小型で敏捷で、鳥類にそれが引き継がれたことを、骨格や羽毛と関連させて述べている。獲得形質の遺伝を唱えたラマルクについても人間のもつ文化的偏見である努力は報いられ、目標をもつ一定方向への前進から支えられていて、その説は生物的遺伝でなく「文化的進化」には当てはまるとグールドはいう。またドーキンズの「利己的遺伝子」説にたいしても、西洋式科学思想のもつ悪習―原子論、還元主義、決定論に由来すると分析している。
理論はともかく、ディズニーのミッキーマウスが次第に幼児化し「可愛いい」のは何故かを、人間のネオテニー幼形成熟)という生物的特異性や、発育途上のある段階にいつまでもとどまるという特色から説明しているのは面白かった。少女マンガの顔や、ジャニーズやAKBの可愛いい文化に当てはめて読んで納得した。(早川書房、上、下巻、櫻町翠軒訳)