東浩紀編『日本的想像力の未来』

東浩紀編『日本的想像力の未来』
マンガ、アニメ、ゲームや映画、絵画、コスプレなどの日本のポップカルチャーは「グローバル化」しているという。経済産業省もソフトコンテンツの海外輸出として力を入れ始めた。この「クール・ジャパン現象」について海外の学者を加えてのシンポジュウムの記録がこの本で述べられている。研究者が正面からクール・ジャパノロジーを論じている。
日本のポップカルチャーについてここでは「未成熟の文化」と「解離の文化」がキーワードになっている。ヴィンセント・ボストン大学准教授は戦後社会のアメリカからの去勢と母系性社会での甘えの基盤の上に不自然で未成熟とされるフィクショナルのものへの偏愛があると分析している。宮台真司氏や東浩紀氏は「解離」を重要視し「かわいいという価値観」「社会から降りる」「オフビート感」「社会的無関連化」「社会から距離をとって少し離脱する」を挙げる。東氏は「一方で脱社会への強い欲望を抱えながら、他方で成熟への強迫観念もまた強い。そうした矛盾を日本社会は抱えています」と指摘している。
またオタクという主体はどのような主体かをリヒター・ライプッィヒ大教授は、ポストモダン的主体という視点(①すべての物を記号化し、深層のない感覚的、刹那的にイベントを楽しみ、組み合わせの妙を演出する②経済的要素としてはモノ、商品だけでなく、自分自身をさまざまな市場の要求に合わせ実験しながら新しいモノを作り出す態度)から論じている。
私はこの本を読んでクール・ジャパン現象を分析する場合、「クール」という文化精神を世界普遍性として考えるのか、「ジャパン」というローカルな特殊文化現象と考えるのかが渾然としていて判り難かった。だがゼロ年代の文化現象を考えるために一読の価値がある。(日本放送出版協会