山本義隆『福島の原発事故を巡って』

山本義隆『福島の原発事故をめぐって』


 『十六世紀科学革命』や『磁力と重力の発見』を読み、私は山本氏から西欧科学の革命を色々と学んできた。その科学史家が福島原発事故を論じたのでさっそく購入し読んだ。山本氏は日本原子力平和利用について、1950年代の中曽根康弘岸信介国家主義に主導され、核兵器潜在保有国というパワー・ポリテックスから発し、いまや核兵器1250発分のプルトニュウムを貯め込んでいるという。原発推進核燃料サイクル推進の深層海流が国防・安全保障政策だとすれば、技術的安全が無視されるのも当然である。
その上で、原子炉は巨大な構造物で、数多くの多様なサイズの溶接された配管や弁が複雑に入り組み、遠隔操作される「配管のおばけ」で、これまでもいくつもの事故が起きてきた。また原子格納容器には深刻な設計上のミスがあり、冷却水が失われると圧力に耐えられなくなる。これは福島で実証されたのではないか。
山本氏の本で迫力があるのは、国家主導型科学の誕生の記述であり、アメリカの原爆開発の「マンハッタン計画」から、日本の「原発ファシズム」の主張である。戦後日本における九つの電力会社の地域独占体制は、戦時統制経済と電力国家管理であった。戦後、大電力会社と旧財閥大企業による「国策民営」が原子力開発を支えていく。経産省官僚システムと地域独占企業が、税金である多額な交付金で地方議会・自治体を切り崩し、多額な宣伝費用で事故を隠蔽し、寄付講座でボス教授の研究室を買収した「翼賛体制」が、子孫まで残る甚大な放射能汚染を招来させたと山本氏はいう。それに抵抗した元福島県知事佐藤栄左久氏は起訴されてしまう。
山本氏の本を読んでいると、昭和の戦中体制が原発開発と重なってきて、米国に原爆を落とされ負けたルサンチマンが「原発ファシズム」を生み出し、第二次世界大戦がまだ続いているかのような幻覚に陥った。(みすず書房