柳宗悦『工芸文化』

柳宗悦『工芸文化』



 民芸運動を行った思想家・柳宗悦が、今年で没後50年になる。民芸とは民衆の日常生活の実用性で使われる焼き物や染物・織物、家具などを指す。この本でも美と生活の結合による「美の国」を目指す。民芸は手工芸が伝統であるから、手仕事による美創造が柳の原点になっている。「生活に即しない美を正しい美とはいえない」という柳は、美術文化から工芸文化の進展による生活美論を主張している。柳は天才的美術家の個人主義的美術のロマン主義よりも、民衆の実用に即した平凡・平易、尋常な健康性の美を重んじた。偉大な画家の「記銘」より職人たちの「無銘」のもの、ブランド品という高価な貴族主義的工芸よりも用美相即の民衆性を工芸文化と考えた。
柳は美の目標として、渋さの美、平常性、健康性、単純性、国民性、地方性を挙げている。私は「渋さ美」を静穏な「空の美」と考える柳に、違和感を抱いた。民衆工芸にはたしてそういうものが重要なのか、柳はやはり茶道に偏していないかと思った。工芸美の特色として、実用性、反復性、低廉性、公有性、模様性、非個人性、不自由性を挙げ論じている。柳は伝統と自然を重んじる。そこには個人の自力よりも、それを超える「他力」という易行道の宗教(浄土真宗的)がある。何を作るにしても、材料や工程の性質に逆らわず、その「人間」の不自由さが「自然」の自由さにより、仕事を完成させるという。
評論家・鶴見俊輔氏はこう書く。「人間が自然の中でたがいに助けあって生き、寿命をまっとうして死ぬ。そのくらしによくつかえる日常雑器の形に美がある。物の形だけでなく、その物の用いられ方に美があり、さらにさかのぼれば、その用いられ方の範型となる美の標準がある。柳にとっては、美は、人間だけのものでなく、自然を範型とするものである。」(『柳宗悦平凡社ライブラリー
柳は工芸文化こそ、物の即して国土を美しくし、健康にする基礎と考えている。(岩波文庫)