朴裕河『和解のために』

朴祐河『和解のために』


 2011年9月9日「朝日新聞」は韓国政府が日本政府に旧日本軍元慰安婦の損害賠償協議開催を提案すると報じている。朴韓国世宗大学教授のこの本は、教科書問題、慰安婦靖国、独島(竹島)という過去の民族共同体の記憶(歴史認識)の日韓の不信と怒りの連鎖を断ち切り、未来の和解を求めるものである。両国の良識に訴える公正な見方に感心した。ナショナリズム民族主義)の思考が、「われわれ」と「彼ら」という単純な二項対立に落ちいりやすい欠陥をもつが、朴氏はナショナリズムの「鏡像関係」をきちんと述べながら、和解の道を探っている。そうした見方が日本にも求められる。
慰安婦問題を朴氏は単純化するのではなく、複雑な重層性から解こうとする。日本軍に慰安施設設置を許容した日本政府の責任やその施設に娘を売った父親や家族の責任、それを利用した兵士たちの責任、米軍に慰安施設を許容している韓国政府の責任―民族、階級、ジェンダーなどの重層した責任が重なり合い、日本の植民地性・軍国性とともに、韓国の慰安婦への差別など、慰安婦の「当事者性」の被害よりも、民族的本質主義が優位にたち、問題の和解にいたらなかったという。日本政府の植民地支配の「謝罪」と「補償」への韓国の本質主義が「女性のためのアジア平和国民基金を破綻させた。朴氏は「国民基金」に反対した日本の女性団体を良心的自国政府批判というが、この本の解説で上野千鶴子氏は最初に韓国女性団体から「カネで赦しを買うのか」というナショナリズムにも原因があるという。
独島(竹島)問題では、両国の自国領土とする歴史を綿密に対比しながら、日本人と朝鮮人の境界民が共に交通していた境界地域として、将来の両国の共同領域として、環境保護や資源開発、漁業も慶尚道島根県民がともに利益を追求する道を提案している。自由貿易協定の時代に難しくはないだろう。「排他的な民族主義の言辞にともに抵抗できるとき、韓日間の友情は、はじめてその実を結ぶことだろう」と朴氏は述べている。(平凡社ライブラリー、佐藤久訳)