松原隆彦『宇宙に外側はあるのか』」

松原隆彦『宇宙に外側はあるのか』



 ビックバン以後の現代宇宙論の問題点を描いている。現代宇宙論では確立した宇宙理論と、臆測にすぎない仮説とをわけるのは難しいが、松原氏の本はそこをはっきりさせようとしているのが好感をもてた。観測・実証できない領域が現代宇宙論には多いからだ。なにがこの宇宙を始めたのかとか、この宇宙以外にも宇宙が存在するのかとか、なぜ構造があるのかや時間・空間の本質まで考え、さらに宇宙に充満しているダークマター暗黒物質)やダークエネルギーまでも解明しようとしているのだから、根底には数学世界があるとはいえ哲学に近づいてくる。量子論に乗っ取った多世界解釈や平行世界論や、人間の存在があるのだから、物理法則は知的生命体が存在できるもので無ければならないという「人間原理」など宇宙物理学が哲学になってきていると感じた。
 松原氏の本は、ビックバンの初期宇宙はどこまで解明できたかを具体的に書かれていて興味を引く。急激な膨張が起こったというインフレーション理論から次々と宇宙が生まれるという「永久インフレーション」にも驚く。宇宙は一つでなく多数あるという「マルチバース宇宙論は魅力的である。だがこれは観測・実証は現在では無理だろう。まだ宇宙初期にどうして物質のもとの電子や陽子が作られたのかさえわからないのだから。
 宇宙のかたちもその全体構造はみえてこない。三次元でなく多次元空間で見なければならないからだ。また宇宙が加速して膨張している原因とされる「ダークエネルギー」も謎である。ブラックホールの向こう側に何があるのかの説明も面白かった。時空のトンネルであるワームホールがあり、それを利用すればタイムマシンになるというのはSF的である。物理学もSFに近づいたのかとも思ってしまう。現代宇宙論の最前線の凄さをこの本で学んだ。(光文社新書