金子勝・児玉龍彦『日本病』

金子勝児玉龍彦『日本病』

経済学者と生命科学者の共著らしく、経済市場と生命の複雑なシステムを多重な制御原理によってどう周期性をもって動くかを解明しようとする。さらに生命や市場の周期性が「病気」に陥った時の治療という「予測の科学」を目指そうとしている。だから視点は、長期停滞から長期衰退という見方が強く、それを「日本病」と名付けている。
生命科学と経済学が二重写しになっているのが面白い。だが単なる類似や比喩として考えるのか、より構造的な共通法則があるのか、戸惑うところもある。バブルとショックの悪性化としての日本経済を、抗生物質の多用による多剤耐性菌の「耐性」が病原菌を産み、抗生物質の効かぬ日本経済につなげる。
エピゲノム病という「制御系の制御」をおこなう細胞ゲノムが、ガン細胞も使うが、それをバブル崩壊後の膨大な民間債務を政府債務に付け替え、制御系を狂わせ、日銀金融緩和でさらに制御系を操作し、信用を崩壊させ「日本病」を悪化させていくと類似を強調する。
生命や経済市場の周期性を失わせるアベノミクスへの批判は興味深い。デフレ脱却として人々の「期待」を操作可能にするインフレターゲットを設定し、異次元の金融緩和に踏み切った。日銀がETE(指数運動型上場投資信託受益権)購入や、年金基金を投入した株価政策(官製相場)で、株価の調整機能を失わせ、外国人投資家の増大をまねいているという。対外ショックにより打撃を受けやすくなる。
金子氏と児玉氏の「日本病」からの出口はあるのかの分析も重要な視点を提出していると思う。ビックデータの操作でなく、現場主義、当事者主義の「予測の科学」を作ろうとしている。システムのフィードバックの多重性がうみだす周期性に注目し、経験的データ重視を考えている。共有や地域分散ネットワークの産業社会、人文科学重視の人間の当事者主権の経済への転換などの産業構造が提示されている。(岩波新書