石巻プロジェクト『石巻学』

石巻学プロジェクト『石巻学』(創刊号)

              東日本大震災から、もうすぐ5年になる。政府による復興新興都市の姿が、石巻にも均質な形を生み出している。だが、記憶・歴史・伝統をもった個性ある地域都市という文化復興がなおざりにされてきた面がある。歴史や文化を掘り起こそうと、「東北学」「仙台学」「会津学」が地域文化運動と連携しおこり、「東松島物語」という雑誌も発刊されている。 
              石巻学プロジェクトは、「石巻学」といった雑誌を創刊した。読んでみるとこれまでの地域誌やタウン誌と違い、ポスト津波の危機感のなか、石巻の過去・現在・未来を繋げ、石巻の「色」(個性)を生み出そうという意欲が感じられる。石巻学の始まりを語り合った赤坂憲雄学習院大教授、高成田享仙台大教授、プロジェクト代表・大島幹雄氏の座談会が面白い。
              石巻生まれの大島氏は、復興の過程で石巻の歴史が忘れられ、文化が薄まる危機感をもち、石巻文化歴史ルネスサンスを目指すという。赤坂氏は、江戸時代以来の土地の記憶が津波でみんな持ち去られたが、中心でなく周縁としての弱者の側にたつ反権力が石巻にはあるという、高成田氏は、海に開かれた漁民文化や、北上川周域の市町村合併の「石巻圏」のアイデンティテイの文化を目指すという。
              雑誌は、「釜谷祭り」の写真特集から始まり、オーラル・ヒストリー(聞き書き)の手法で、本間秋彦氏「離れて思う鮎川」から、全線開通した仙石線に乗る芦原伸氏「復活の鉄路」、ダメじゃん小出氏「私と若宮丸漂流民物語」などが掲載されている。
              連載では、私は津波で流された映画館・劇場の歴史を書いた大島幹雄氏の「岡田劇場物語」や、「石巻さかな族列伝」さらに、津波に残った本間家土蔵の本間英一氏の「本間家蔵出しエッセー」が面白かった。
海との視点は「開かれた石巻」を重視する。濱田直嗣氏の「慶長遺欧使節復興論」もいい。この雑誌の創刊により、石巻学が盛大になり、復興文化を創造していくことに繋がればいいと思った。(有限会社・荒蝦夷