カニグズバーク『クローディアの秘密』

カニグズバーグ『クローディアの秘密』
 朝日新聞によると、4月19日児童文学者のE・Lカニグズバークさんが米バージニア州で亡くなったという。私は彼女の『クローディアの秘密』を嘗て読んだことがあり、本棚から取り出し再読した。前に読んだときはサリンジャーライ麦畑でつかまえて』(白水社)と比較したいと思って読んだ。だが家出をし、ニューヨークに向かうグローディアは12歳、一緒に家出するジゼイミーは9歳だから、サリンジャーの少年より低学年であり、クローディアは学習的成長で大人になっていくのに対し、ホーリフィールドは反成長的であり、より反抗的なので比較することを止めた。
この姉弟の家出は、とても計画的であり、メトロポリタン美術館に隠れ、そこを本拠に一週間も生活するのである。私も大英博物館ルーブル美術館に行ったとき、あまりの広さで迷路感をもったが、メトロポリタン美術館も8万平方メートルもあり、絶好な隠れ家になる。いかに守衛の目をごまかし、エジプト石棺に荷物を隠し、フランス宮廷の家具や寝台に隠れ、軽食堂で食事をし、噴水で入浴するなどわくわくする遊び感覚の冒険である。クローディアは勇気ある少女だ。宮崎駿監督がこの作品をアニメ化しようとし、舞台を上野・国立博物館に変えてと思ったが、大人でも夜の博物館はお墓のように怖くやめたという。(『本へのとびら』)
この姉弟の好奇心は素晴らしく、最近美術館が買い入れたミケランエロの天使像の真贋の謎を解こうとする。その知的努力をこの平凡な姉弟が突き詰めていき、その元所有者の82歳の老婦人に「秘密」を解くため訪ねていくのが、クライマックスになる。「秘密」をもつ楽しさが、大人になる成長の印であり、人の内側に秘密をもつことが、人を違った個性を持った者に成長させる。この老婦人も秘密を一生抱えて生きる糧にしてきたのだ。私の仮説では、この老婦人こそ少女クローディアの未来の姿であり、この物語は円環構造になっているのだと考える。
 解けない秘密と好奇心が、子供を成長させていくというのが、この児童文学のテーマだが、同時にそれは老年まで持続し、老女も成長しているのだと思う。ケストナーの『飛ぶ教室』とともに、子供いや人間死ぬまでの成長物語として優れている。その核は秘密と好奇心。老女の少女にたいする秘密を聞き出す好奇心には感動する。それに対しその夫のひからびた事務的な態度。カニグズバークさんが、この本を書いたとき3人の子の母親であり、化学者でもあった。映画化もされている。(岩波少年文庫、松永ふみ子訳)