高階秀爾『20世紀美術』

 高階秀爾『20世紀美術』


 20世紀美術は、日常的感覚世界の写実を拒否し、非古典世界を創造するため、「単純化」と「純粋化」の道を辿ると高階氏は書き始めている。セザンヌが形態の純粋性を求め、ゴーガンが色彩の純粋性を求めたところから、新造形主義や抽象絵画の道が始まった。高階氏は20世紀美術をオブジュとイマージュの分離と転化を先ず論じている。質料としての、物体としての素材・オブジェそのものへの回帰、オブジェそのものの触覚的造形のための解体がピカソ、ブラックを通り、コラージュからラウシェンバークのオブジェの集積まで行き着く。他方イマージュは否定されるが、逆にオブジェに転化し「虚構のオブジェ」の世界を作り出す。ジャスパー・ジョーンズが現実の星条旗や地図を、自己のイマージュにより新たなオブジェに変形させて作り出す。私はフォンタナの白いキャンパスを鋭利なカミソリで縦に三本切り裂いた「空間概念」という作品に、オブジェ絵画の凄さを感じる。
 高階氏はさらに20世紀美術を「構成と表現」に分けて考えている。20世紀美術の純粋造形性の優位は、「主題という意味」の衰退に繋がる。重層的意味が喪失し、形態と空間の純粋性が追求される。空間はモンドリアンから始まり、色彩と形はカンデンスキーの「抽象絵画」から始まる。彫刻ではブランクーシだ。「構成主義」が人間の外側のオブジェの純粋化だとすると、「表現主義」は人間内面の無意識層のイマージュである幻想の表現になる。ルオーやルドンから始まりシャガールモンドリアンに到ると高階氏は分析している。この本はさらにアメリカのポロックの抽象表現主義をも新しい伝統として取り上げ、それに反抗し具象絵画に戻るウオーホールなどのポップアートや、ライリーのミニマルアート、さらに新写実主義まで論じていて20世紀美術をしるためには、読みたい本である。(ちくま学芸文庫