『牧野富太郎』

牧野富太郎―なぜ花は匂うか』

私が「近代奇人伝」を書くとしたら、牧野と南方熊楠は欠かせないだろう。「牧野日本植物図鑑」には、自ら収集した植物約40万枚が収められている。水中の食虫植物・ムジナモの発見者である。この本にも「世界的稀品ムジナモを日本で発見す」という一文が収められている。偶然、南葛飾の用水路で採取したのが、世界的発見というのも面白い。
牧野は、この本でも書いているが、「私にとって植物は愛人であり、心中してもいい」という惚れようである。植物の大オタクといってもいい。私生活では13人も子供を作り。妻は50代で死んでしまう。貧乏暮らしの生活、小学校しか出ずに、東大の植物教室に頻繁に出入りしたが、学歴がないため、大学に就職できなかった。博士号はとったが。
このアンソロジーには、ツバキ、サザンカカキツバタ、蓮、スミレカラアケビイチョウ、ススキ、さらに野外の雑草まで描かれている。いずれも牧野の愛情が溢れている。
博物学だから、詳しい形態や受粉、構造などが詳しく書かれている。だが、エコロジーの視点や、遺伝子的見方は避けられている。植物の挿絵など、細密画のようにえがかれており、芸術的である。
私は浅見で、バナナは皮をたべているとか、蜜柑は毛をたべているというのを、初めて知った。(平凡社