前田裕之『銀行』

 前田裕之『銀行』
 
           「ドキュメント」と、「金融再編の20年史1995−2015」と副題がついている。現役の日経新聞編集委員が書いた力作である。
           銀行とは何か、銀行は安全化という基本的な経済・財政論をみる経済学的視野と、金融バブル崩壊、金融再編の五大金融メガバンク誕生、金融ビックバンという歴史を見る目が交差していて、その力量で、現代の銀行とは何かが浮かび上がって来る。
           金融ジャーナリストとして、大和銀行巨額損失事件からりそな銀行という合併から始まり、バブル崩壊後日本五大金融グループ(三菱UFJ、みずほ、三井住友、りそな、三井住友トラスト)、長信銀の消滅がどんな経緯で誕生したのかを追う。前田氏は、その時代を象徴する銀行経営者を多く登場させ、その談話、著書を元に書いていく。城山三郎経済小説を彷彿させる。不良債権、追い貸し、合併のドラマがある。
           さらに、銀行の新陳代謝として、地方銀行第二地銀、インターネット銀行の新設銀行を、象徴する事例を多く取材し、その真相に迫っていく。私は地方銀行とは何か、なぜ生き残っていったかを、前田氏の丹念の取材で理解できた。新銀行東京の盛衰、ソニー銀行セブンイレブン銀行の誕生も、その経営者の生の声が聞こえてきて興味深い。
           銀行業の本質とはなにかを、この20年の歴史を踏まえ前田氏は追及していく。ここが重要なのだ。銀行は政府の「規制業種」で、日本では大蔵省の「護送船団方式」が長く続いてきた。それが金融ビックバンにより、21世紀に市場主義が強まってきている。だが金融庁の監督・監視は強い。
           規制緩和は、内外の資本取引の自由化、証券会社の登録制など証券会社から始まった。前田氏は銀行業務は、中世の銀行から本質は変わっていないとみる。預金を集約し、貸し出しし利ざやを取る形式だ。収益の拡大を目指し新規事業に乗り出すが失敗も多い。欧米のユニダーサルバンクが投機色の濃い、自己勘定での証券売買に手を染め、リーマンショクを起こした。
           日本も金融コングロマリット誕生で、業務の多角化は落とし穴があると前田氏は指摘している。日本人の預金信仰は、自由化による「預金から投資へ」を政府は前提としている、だが、そうは簡単にいかないと前田氏は分析している。少子高齢化社会で預金は減りつうある。
           残念なのは、ゆうちょ銀行について、経過や在り方が最後に少しだけしか触れいていないことだろう。ここにこそ金融リテラシーが必要だろう。(ディスカバー・トゥエンティワン刊)