クッツェー『マイケル・K』

クッツェー『マイケル・K』
    南アフリカが、アパルトヘイト末期の内戦時代の1983年に、書かれた傑作小説である。ここには暴力的文明と、有色人でみつ口のマイケル・Kの「原自由」なサヴァイバルな生き方が、アフリカの大地を背景に描かれている。
    私はこの小説を「寓話」的だと思うが、ロビンソン・クルソーやカフカの「k」を主人公とした小説を思い浮かべた。マイケルは、死に掛かった母親を、手押し車にのせ、騒乱のケープタウンから内陸の農村を目指す。ロードムビー的で「イージーライダー」のように、自由を求める。
    だが、途中で母は死に、遺灰を持ち農場に向かう。人種差別支配の、白人支配の文明的暴力が、有色人マイケルに立ちはだかり、キャンプという強制労働収容所に囚われる。マイケルは脱出し、農場にたどり着き、空き家で荒れ果てた農場で、大地を耕し、カボチャなど植える。ここの描写は。隠れ住みながら、自由に農業を営みいきる「原自由」がある。
    マイケルは、軍隊・警察に見つかり、反体制の一味と見なされ、再びキャンプに収容される。ここでのマイケルの抵抗は、拒食による体の拒否によって示されている。第二部になると、そこで治療にあたる「医師」の、マイケルの生き方の素朴な原始的自由の考察になっていく。
    訳者・くぼたのぞみ氏は、クッツェーの主題は「暴力」で「帝国の暴力、主人が従者に、植民者が被殖民者に、所有者が奴隷にふるう暴力、検閲、教育、徴兵といった制度としての暴力、土地や資本の占有による経済的暴力、人間が動物に対して振るう暴力」などが上げられている。それが、近代的文明によっておこなわれている。私は、この小説は、人間の暴力からの逃亡、原抵抗、サバイバル、自由の要求を描いていると思う。(岩波文庫、くぼたのぞみ訳)