佐々木正人『新版 アフォーダンス』

佐々木正人『新版 アフォーダンス
       この旧版が出た1994年には、「感覚刺激からの入力を脳が処理して運動を制御する」という伝統的考え方に反対して、環境にたいする運動行為による生態学的協調システムによる「知覚の束」が、認知だという見方は新鮮だった。当時ベイトソン氏の『精神の生態学』(思索社)や、中村雄二郎氏の『共通感覚論』(岩波書店)などと共に、単純な刺激―反射的知覚・感覚論への対抗理論として読んだ。
       2015年の新版では、さらに空軍視覚システムユニットなどの実験や、身体から言語までアフォーダンス論が深まり、さらに人工知能やロボット技術という実践にまで取り入れられて来ていることがわかり、進化していると思った。例えば、佐々木氏によると、ソフトロボットや、家庭用掃除ロボット「ルンバ」は、この理論の応用だという。センサーとモジュールが多層に並列していて、ルンバは、壁伝いに動く、障害物にはランダムに移動角度変更、段差を検知し落下を避けるなどの「知覚の束」を備えている。
       アフォーダンスは1980年代米国のギブソン氏が、感覚刺激が知覚の原因ではないという外界の環境と身体の関わりから知覚を捉えようとしたところから出発している。「ニユー・リアリズム」「エコロジカル・リアリズム」といわれ、知覚を全体の「ゲシュタルト」や「フレーム問題」から解明しょうとした。視覚でも、知覚者自身の動きや姿勢を重視している。
      「アフォード」という動詞から、ギブソンが新語化したアフォーダンスは「環境が動物に与え、提供している意味や価値」をいう。環境は、空気、物質、そして「面」、レイアウト、媒質、出来事であり、環境の持続と変化にあり、佐々木氏は、環境を知覚することが自己を知覚すると、自己主体を逆転した「エコロジカルな自己」を述べている。
      環境と行為の同時性や、感覚器官と運動器官の連続性、知覚システムの非中枢制御論、などアフォーダンスは、重要な視点を秘めている。私は佐々木氏が新版で述べている「エコロジカルな言語論」に興味を持った。会話の相互行為のダイナミックスは、急速なリズム調整や相互意図の予期など、注意の「知覚的協調」が見られ、発話は音声を中心とした全身のハイブリットな身振り情報なのだという。言語の「環境」「不変項」「知覚システム」などから、アフォーダンスの言語論が生まれる。(岩波科学ライブラリー)