佐藤智恵『テレビの秘密』

佐藤智恵『テレビの秘密』

   視聴率とは株価と似ている。変動要素が多く、どんな計算式を用いても予測できないと佐藤氏はいう。佐藤氏はこれまで、制作者、編成者、経営者、出演者、視聴者の立場からテレビを、日米両国で「複眼的」に見てきた。ヒットのセオリーを書いている。
  まずドラマ。7、8割は脚本だが、主人公は視聴者の共感できる人物か、超人的人物である。高視聴率の「半沢直樹」の後継番組「ルーズベルト・ゲーム」がハズレたのは、立派な社長のドラマは、中間管理職のヒーローにかわないからだ。「相棒」でも、杉下右京は出世を外れた中間管理職で、部下は平社員の巡査部長だ。
  NHK朝ドラ「花子とアン」の高視聴率は「アナと雪の女王」と似ていると佐藤氏はいう。ヒロインが二人であり、ファンタジーの要素があり、男性の存在感が薄い。
     「マッサン」特に北海道編の高視聴率は、外国人女性がヒロインの冒険作だったのに驚きだった。佐藤氏は「あまちゃん」以来朝ドラみる視聴習慣定着や、企業ものとして男性も見た、泉ピン子の嫁姑もの、さらに外国人ヒロインの日本人らしさを挙げている。
  「ドクターX」の高視聴率は「失敗しない女医キャラ」を、西部劇の流れ者一匹狼として設定したところにあると見ている。NHK「朝イチ」独走のわけは、和風の顔立ちで親近感持てる「NHK顔」の有働、井ノ原の起用にある。40代女性目線の特集も成功だ。朝ドラとの連携も挙げられている。
  高視聴率番組は、マスをターゲットにするか、マニアむけの特殊なニッチ番組化に分かれる。「マッコ&有吉の怒り新党」は、マスとニッチの両方の欲求をみたして成功したと佐藤氏はいう。女性の心を癒すお悩み相談と、男性のマニアの心をくすぐる「新・三大」の二層構造が視聴率を上げた。マッコが細かいほどのディテールへの「こだわり」を語るのも人気の秘密だ。「ヨルタモリ」の残念さは、どっちつかずのためと、佐藤氏は分析している。
  「アメトーーク!」をハーバード・ビジネススクールの授業方式(雛壇芸人方式)との類似性から論じてみたり、池上彰の選挙特番の人気を、終了5秒前の「毒舌」から説明するなど面白かった。(新潮選書)