川上量生『コンテンツの秘密』

川上量生『コンテンツの秘密』

     川上氏はドワンゴを設立し、また「ニコニコ動画」の運営に携わっている。同時にジブリでプロヂュサー見習いとして過ごし、宮崎駿高畑勲庵野秀明氏らとコンテンツ作りの現場を経験してきた、川上氏はコンテンツの情報量の仕組みやクリエイティブとは何かを書いている。
    「コンテンツとは現実の模倣=シュミュレーションである」という定義から出発して、人間の脳が認識している情報量を「主観的情報量」、アニの線の数からコンピュータの画素数まで客観的に測定できる「客観的情報量」にわけて考えている。その上で「小さな客観的情報量によって大きな主観的情報量を表現したもの」をコンテンツと、川上氏はいう。ここにいたる宮崎アニメの具体的分析が面白い。
    さらに、コンテンツは現実の模倣だが、「脳のなかのイメージの再現」だという発見に至る。脳は特徴を単純化して、情報量を少なくして覚えている仕組みを説明し、「コクリコ坂から」のオートエンコーダ的解釈に行き着く。クリエイターとは、脳のなかのイメージを再現する人ということになる。
    コンテンツのパターンとは何かは面白い。分かりやすさと「ずらし」、ストーリーか表現か、いかに観客とシンクロするかなど、宮崎アニメ、高畑アニメ、庵野アニメ、押井アニメの実例を挙げながら述べているので納得しやすい。
    コンテンツはクリエイターのヴィジョンを表現したもので、天才というのは「自分のヴィジョンを表現してコンテンツをつくるときに、どんなものが実際にできるかをシミュレーションする能力を持った人」という。IT界のスター川上氏が最後にたどり着いたコンテンツの定義は、「遊びをメディアに焼き付けたもの」というのも興味深かった。(NHK出版新書)