荒木飛呂彦『漫画術』

荒木飛呂彦荒木飛呂彦の漫画術』

  漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の漫画家・荒木氏が、漫画の王道を描くためのノウハウについて、自作をもとに「地図」として書いたものである。漫画が「総合芸術」であることがよくわかる、
   最初の1ページをどう描くかを、5W1Hの凝集としてとらえ、荒木氏のデビュー作『武装ポーカー』を例にとって説明している。その上で、漫画基本四大構造という図式を述べる。①キャラクター②ストーリー③世界観④テーマの四つを論じていく。この四つのバランスが必要だ。
  キャラクターはその欲望の動機が重要で、動機リストを作る。勇気があり孤独で戦うキャラクターは共感を呼ぶが、そのためには「身上調査書」を作る。悪役、脇役をいかにうまく設定するかも重要になる。ストーリー作りの鉄則は、日常の「起承転結」を体で覚えさせ、「プラスとマイナスの法則」では、少年漫画はともかくプラス志向であるべきであると荒木氏はいう。主人公は「常にプラス」である。
   困難な状況に主人公を放り込む。セリフは自然体で状況がわかる手法で、ネミングウエイのセリフを学べという。絵はこの四大構造をすべて包み込むため、「リアル化」と「シンボル化」の同時進行が大切で、鳥山明氏の漫画はそれをうまく使っている。
     顔や人体ポーズには「美の黄金比」を覚える。「関節の動くロボット」が描けるといい。愛や友情、正義、超能力。風・火・空気など見えないものの可視化の技巧が説明されている。
  漫画で読者は「世界観」に浸りたいから、何気ない風景を描くときも徹底的にリサーチする。「サザエさん」や「こち亀」が例に挙げられている。ネットでリサーチするのではなく、現場に直接行く。それらをつなぐのが「テーマ」である。
     実践編では、アイディア、ネーム、コマ割り、短編の作り方まで説明されている。方法論であるとともに、荒木氏の漫画を理解するために良い本である。(集英社新書