瀬川拓郎『アイヌ学入門』

瀬川拓郎『アイヌ学入門』

   日本国民は、同一民族という考えが強い。やっと「多民族国家」だという歴史観が認められつつある。アイヌ民族先住民族だという見方は、1997年の「アイヌ新法」により少しずつ根付きつつある。それまでは、1899年の「北海道旧土人法」の同化保護にあったのだ。
   瀬川氏はアイヌを「日本列島の縄文人の特徴を色濃くとどめる人びと」と見ている。沖縄の琉球民族とともに、縄文先住民であり、その後大陸からの弥生民族との融合により、現在の日本国民は作られている。天皇家始め日本の国民の大部分は弥生稲作の渡来人なのだ。
   瀬川氏は先住民アイヌが、未開で自然と共生する民という見方を変更し、ヴァイキングのような毛皮やシャケなど魚、オオワシの尾羽などの交易を行う「海のノマド」として捉えている。北方のサハリン・千島からのオホーツク民族の移動と戦い、東方のヤマト民族の進出(侵略)の両方に挟まれ、文化融合していったという。だが、1万年も続いた縄文文化の遺産は。孤立語化したアイヌ語や、刺青、ミイラ習俗などに残った。
   オホーツク文化圏の接触は、12世紀のアイヌ対元戦争(元寇)にとどめを刺し、大和民族とは近世のシャクシャイン戦争になる。瀬川氏は交易を重視し「沈黙貿易」を、オホーツク人と行ったという。オホークツ文化から小人伝説が伝播したという仮説は面白い。
  10世紀前後のヤマト弥生民族の接触で、行進呪術が陰陽道から、疱瘡神蘇民将来の民俗、山の神の農耕儀礼などの祭祀は、古代ヤマト民俗との雑種文化融合という見方も納得出来る。
  アイヌが北海道の砂金文化の民であり、奥州藤原氏の黄金文化はアイヌとの接触によるという問題提起も、考えさせられる。義経伝説もこの基盤から出てきたのかとも思う。大胆な歴史観発想の転換が詰まっていて。興味深い本である。(講談社現代新書